3Dプリンタ ALUNAR M508の改良 Z軸エンドストップ改造(2) 設計編1
前回はエンドストップの構想をしました。
今回は具体的な構造の設計を行います。
参考にするのはこちら
この構造を見てわかるのは、
- 上パーツ、下パーツ共に3Dプリンタ本体のネジを利用して固定する
- 上パーツのネジにアタッチメントをつけて、スイッチと接触する面積を増やしている
- 上パーツのネジをダブルナットで固定している
- 下パーツの角部分を肉盛りして強度を確保している
という4つの点です。
それぞれしっかり意味があるので解説していきます。
1.上パーツ、下パーツ共に3Dプリンタ本体のネジを利用して固定する
これはものすごく重要です。
なぜなら、「パーツの固定に手間がかからない」からです。
- 既存の機械に別なパーツを取り付ける場合、
- 既存の機械に加工して取り付ける
- 溶接、接着剤等で取り付ける
- 既存の構造を利用して取り付ける
等があります。
今回パーツはステッピングモータをプリンタのフレームに固定するネジを使用しているので「3」にあたります。
「1」のやり方について考えると、「ドリルでプリンタ本体に穴を開けて、ネジで留める」というものになります。
はっきり言って、このやり方はオススメできません。
まず、ドリルで穴を開けるというのは相当に訓練が必要です。穴が歪みます。ズレます。まっすぐに開けれません。
こういったハンドドリルで正確な穴を開けることができるのは、相当な達人だけでしょう。
こういった卓上ボール盤があれば正確な穴を開けることができますが、
これを使っても正確な穴を開けるにはそれなりに訓練が必要です。
失敗してもやり直しが効かないので、かなり難しい作業になります。
プリンタ本体に穴が開いてしまうので、強度等の問題も出てきます。
よっぽどのことが無い限り、このやり方は避けましょう。
「2」のやり方について考えると、プリンタはプラスチック製なので、接着剤で固定するという方法になります。
このやり方は割と妥当なやり方です。適切な接着剤を使えば部品は一発でくっつきます。
問題点があるとすれば、接着剤の強度に不安な点があり、適切な接着剤を選ばなければプリンタ本体にダメージが生じ、さらにどうしても人の手では歪んでくっついてしまうので、そこらへんを気にする場合はマイナスです。
接着すると、新しい部品で修理・改良するときに部品を剥がすのが面倒というのもマイナスポイントです。
グルーガンでポン付けしてそれで終わり。機能は十分文句なしというのなら全く問題がありません。
「3」のやり方について考えると、プリンタの寸法を測って、それに合うパーツを製作するという方法になります。
今回はこれが最良の方法です。なんといっても3Dプリンターなんですから、パーツの寸法は自由自在です。
今回必要なのは、パーツを留めることができる長めネジだけなので、ネジを買ってきて、必要なパーツをプリントするだけです。
工具でプリンタを加工する必要も無く、取り付け取り外しもネジを締めるだけで簡単にできます。
2.上パーツのネジにアタッチメントをつけて、スイッチと接触する面積を増やしている
これも重要です。なぜなら「寸法が少々いい加減でも実用になる」からです。図のように
スイッチと接触する面積が広い場合、上パーツと下パーツの位置が少々ズレても、スイッチの動作には全く問題がありません。
もしこの接触面がこんなふうに上と下が細い針のような形状だった場合、1mmズレたらまともに機能しません。
接触面が広いことで、設計製作時のズレを吸収して 問題が生じないようになっています。
え?、ズレるのかって?
はい、ズレます。間違いなくズレます。
あなたがプリンタ本体の正確なデータを持っていて、それを設計に使えるとかでない限り、必ずズレます。
ことによるとデータを持っていてもズレます。
それはなぜか?
ものづくりは「ズレ」、もっとしっかりとした言葉で言うなら「誤差」との戦いだからです。
寸法を測るときにズレます。
図面から部品を作るときにズレます。
部品を組み立てるときにズレます。
とにかくズレてズレてズレていく
普通に考えると、いかに全てのズレを小さくしていくかということなんですが、ここで発想を変えます
「逆に考えるんだ!ズレちゃってもいいや・・・と」
ズレてもいいように設計できるというのは、モノづくりではとても大切なスキルです。
3.上パーツのネジをダブルナットで固定している
とりあえずはこのあたりを参考に
ねじのゆるみ止め
ダブルナットというのはネジにナットを固定するときの有名なテクニックです
ネジを二つ重ねてお互いに締め付けあうようにすると、特別なロック機構なんかが無くても、ナットの位置を固定できます。
4.下パーツの角部分を肉盛りして強度を確保している
見えやすいのが無かったので、図は私の設計データです。角部分に肉を盛っています。
これは上からの力による「せん断」に対する抵抗を増やすためでしょう。恐らくですが。通常の機械の設計ではこういった角はカーブさせるのが普通です。
なぜカーブさせるのか?
それは、カーブさせないと力が集中する「応力集中」という現象が発生し、
あっという間に破壊されてしまうことが知られているからです。
この設計の場合、「せん断」される部材を増やすことで加わる力を現象させていると思われます。
以上が私がこの画像から読み取った情報です。
この情報をもとに設計していきます。
さて、それでは設計に移ります
設計に使用するソフトはAutodeskのFusion360です
この3DCADソフトは個人使用(収益が一定以下のスタートアップ企業等)の場合、無料で使用することができます。
参考書籍としてはこのあたりをオススメします。
このテキストを一通りやると、今回のエンドストップの改造を問題無くできるようになります。無論、ネットでの学習でも問題ありません。
まず重要なのはプリンタの寸法を測ることです。
寸法を測るには、定規の端から長さを測れる定規とノギスがあれば十分です。
測る寸法は
- マイクロスイッチの寸法
- ステッピングモーター固定ネジの間隔
- Z軸シャフトとネジの位置
- 原点を出したときの3DプリンタのZ軸パーツのフレームとの位置関係
です。
とりあえずマイクロスイッチの3Dモデルを製作しておきましょう。
既存の3DCADデータを流用できれば最高なんですが、データが見つからなかったので自前で作ります。
こういった既成の部品は、寸法を測るよりもメーカーサイトから図面を探したほうが速くて正確に設計することができます。
本体に刻印されているKW12 QiAOHを検索するとメーカーのサイトがみつかりました。
qiaoh.en.ecplaza.netこのサイトの図面を参考にマイクロスイッチの3Dモデルを製作します。
単純な押し出しでこれくらいは作ることができます。ちなみにローラー部分はノギスによる実測で寸法を測ってソレっぽく作っています。少々寸法が異なるかもしれませんが、実用上の問題が生じることは少ないのでこれで問題ありません。
メーカーサイトの図面にローラーがついているものがありませんが、これはローラーが付いているのは恐らく特注仕様のスイッチだからです。こういったラインナップにない特注製品というのは以外と多く存在します。
次にステッピングモーター固定ネジの間隔をモーターの型番から調べましょう。
17HD40005-22Bをgoogle検索で検索すると、次のPDFファイルが見つかります。メーカーが違ったりするようですが、この手の部品は型番が同じなら大抵同じ寸法なので問題ありません。
http://www.pbclinear.com/Download/DataSheet/Stepper-Motor-Support-Document.pdf
このPDFファイルによるとネジの間隔は□31 つまり四方で間隔31mmということになります。
実際に測ってみても31mm
まあ、これくらいなら簡単に調べることができますし測れます。
ところがZ軸シャフトとネジの位置なんかは結構厄介です。
定規で位置を測るのというのは結構難しい。
定規がナナメになったりしますから、正確な位置を計測するのが以外と困難なんです。3Dスキャナでもあれば別なんでしょうが、現時点では現実的ではありません。
そこで3Dプリント用STLデータから寸法を得ます。
RepRapシリーズは部品の3DCADデータが公開されているのでそちらからもってきてもいいのですが、今回はALUNAR M508のSDカードに記録されているパーツのプリント用データを手っ取り早く使います。ファイルはTestFile→STLMode→Z-left.stlを使用します。データが壊れている場合は、メーカーサイトからダウンロードできます。(現在メーカーサイト不調のためダウンロードできません)
STLデータを変換する方法はこの辺の「メッシュデータをソリッドに直接変換する方法」を参考に
パッチモードでの面の結合をすれば、かなり使いやすくなります。
このデータにシャフトやフレームを取り付ければ設計が随分簡単になります。
ただ、ここからが少し問題です。実はこのSTLデータはパーツの形状しか記録されていません。円の中心といった情報が欠けていて、円の外周のデータだけなので、Fusion360で直接シャフトを同心円に描くことができません。
なのでパーツの穴の中心を円周から割り出してやる必要があります。
中学校の数学で、円の中心を求めよ、という問題をやったことがある人は多いと思います。今回はそれを利用して円の中心を求め、スケッチに同じ直径の穴を書いておきます。円周に弦をの線を引いて、それぞれの弦の垂直二等分線を引くと、交点が円の中心になる。これを利用すれば円の中心を形状データから求めることができます。
これでシャフトやネジがどのようにパーツを組み合わさるのか求めることができるので、これを利用して直径8mmのスライダシャフトを組み合わせそのまま真下にフレームを組み合わせます。
これで3Dプリンタのデータを設計に使うことができるようになります。
あとはこれを使って設計していきます。
長くなってきたので次回に続きます。